第9章 奥義(おうぎ)
もうすぐで秋になる…
それまでに合格しないと
風邪を引いてしまう
重心を見極めることは、徐々に出来るようになりつつはある
でも…
最後に近付けば近付くほど、傾きが微細なものとなっていて
それが見極めることを難しくしている
その更に隣にある、滝から見て左側が一番難しいものらしく
そこで何度も見本を見せてもらったが…四苦八苦しているのが実情
なるほどと思っても、即座に判断して飛び移る、そこまでが習慣化出来ていない
ただでさえ水の上だからか常に揺れている
安定性を常に求められるし、少しでも体勢を崩せばそれだけでも落ちる
ここに来て…遠(とお)に、二月(ふたつき)は過ぎようとしていた……
重くなる気に…歩みが止まりそうになる
最後の終盤…
100個ほど全く水平のままで、どこが重心なのかも一切わからないというものだった…
傾きが全く無く、一目見ただけでは判別が付かない
直感で渡ろうとしても乗った時点で沈んだ
どこを踏んでも必ず沈む
一度も成功しない
その結果がありありと示していた
恵土「重心に乗ったと気付かれないほど早く渡ること!」
そう人差し指を立てながら教えてくれたけれど……
しのぶ「つまり…重心が無いということ?」
行き詰まったそれに、そんな考えがよぎる
段々と傾きが無くなっているようには感じていた
けれど…まさか全く無い?それとも中央だけ?
でも乗ったらすぐ沈んだ
20cm四方の範囲に乗るようにしたけれど、それでも…
師匠は、渡りだと言っていた
身も心も軽くして、雑念(心)を無にして、乗るのでは無く渡るのだと…
その最後が難しくて…ご飯の手も止まっていた
それから後…
風呂で、風呂桶の上を渡れと言い付けられた
しのぶ「……え?」
恵土「それが…最後の50mを突っ切るコツだ!
支えも無く、安定も無い
そこを渡れるようになれ
重心が無いんだ
糸が無いように作ってある
だから乗るのでは無く渡れ
水上の風呂桶を渡ることも出来るようになれ」
しのぶ「どう…やって?」
終盤の渡りの見本を見せてもらった
それでも出来なかったのに?
恵土「………
自分のやり方は、自分で見つけろ
切り抜け方を、自分で見つける為の修練だ!!
答えでは無いが…一つだけ言う
……
一瞬だ
一瞬だけで、渡れ」