第4章 4
♪♪♪
────ガラガラと音を立てながら、馬車が進んでいく。
俺は荷台の幌に背中を預け、煙草を吸っとった。
「──俺はてっきり、レガートは姫様を連れてくると思ったんやけど」
「何でレガート一人だけやねん」
「拍子抜けだね」
「…………」
同じく幌に背中を預けながら、宿の女主人にもらったパンをかじりつつ、白い目で俺を見るメンバー。
「……だーかーらー、アリアは『カデンツァの姫様』やから、連れ出したらアカンって言ったやろ!!」
「そんなの関係あらへん!!
反対するヤツはレガートが吹っ飛ばしてくれば良いんや」
「んな無茶な……」
「それくらいあっちゅう間やろ」
俺はうんざりして天を仰ぎ、煙草の煙を吐き出した。
「吹っ飛ばすか……、それか……姫様をさらってくるとか!!」
「「「おー!!!!」」」
レグの言葉に、ドルチェとラルゴとダンテが目を輝かせて拍手をする。
「かけ落ち、っちゅう手もあるで!!」
「かけ落ち!!良いな!!燃えるな!!」
ダンテの言葉に鼻息荒く、ドルチェが食い付く。
俺はそれ以上は聞かないことにして、また煙草を口にくわえた。
────何年か先、いつかまたカデンツァの街を訪ねよう。
カゴの外を知った鳥は……どんな歌を聴かせてくれるやろか。
……きっと…誰も文句が言えないくらいの美しい歌を聴かせてくれるんやろうな──。
俺は煙草を離した口の端を上に持ち上げて、誰にも知られないように、小さく笑った。
────数年後、レガートはアリアとの約束通りカデンツァの街を訪れる。
アクロポリスの外へと足を踏み出したアリアの力により、カデンツァの街は大きく発展していて、人口も倍以上に増えていた。
やがてカデンツァはGAIAの中心都市となり、各地を旅していた『Arc』も、カデンツァのガイアミュージアムを本拠地としてカデンツァに留まり、毎日のように演奏をするようになった。
────レガートとアリアがどうなったか?
……それはまた、別の話。
これは、長い永い時間が流れる前の話───。