第13章 全力の先、静かな想い
扉が閉まったあと。
天晴は、天井を見つめたまま、ゆっくりと息を吐いた。
天(そう呼ばれる位置に、俺はいたんだな)
一瞬だけ、胸の奥が静かに軋んだ。
だが、それ以上の感情を表に出すことはしなかった。
想いは、消えない。
だが、それを抱えて踏み込むほど、子どもでもなかった。
天(幸せでいろよ、)
誰の隣に立つのかは、が決めることだ。
それが自分でなくても、守りたいと思った気持ちまで否定するつもりはない。
天(…俺は、俺のままでいい)
弟を託し、背中を押し、ただ遠くから見守る。
それが今の自分にできる、答えだった。
駅で飯田と別れ、は新幹線に乗って家へと帰る。
窓の外を流れていく夜景をぼんやりと眺めながら、今日一日の出来事が、遅れて胸に落ちてくる。
体育祭、歓声、生徒たち。
そして、病室で見た天晴の姿。
(……無事でよかった)
それが一番の本音だった。
ヒーローを辞めると静かに告げた天晴の横顔は、大人で、優しくて、少しだけ遠く感じた。
家に着くと、シャワーを浴び、最低限のことだけ済ませて布団に潜り込む。
体は鉛のように重い。
体育祭で何人も治癒し、その反動と、溜まっていた疲労が一気に押し寄せてきていた。
(……明日、仕事か)
その言葉に、ふと一人の顔が浮かぶ。
いつもの眠そうな目、ぶっきらぼうな声。
それなのに、なぜか一番安心する存在。
(……ちゃんと、休めって言われるだろうな)
少しだけ、口元が緩んだ。
静かな部屋で、深く息を吐く。
まぶたがゆっくりと重くなり、意識が沈んでいく。
こうして一日は終わり、また新しい明日が、すぐそこまで来ていた。