第11章 目覚めのあと、名付けられないもの ※微
相澤は玄関へ向かいかけて、ふっと足を止めた。
相「……」
振り返らず、低く言う。
相「…悪かった。急に」
短く、それだけ。
相「教師としても、大人としても…やっていいことじゃない」
「……」
少し迷ってから、言葉を選ぶように。
「…嫌、じゃなかったです」
相「っ…」
相澤は一度、息を吐く。
相「…それが一番、厄介だな」
自嘲気味に、低く。
「え…」
相「嫌じゃないって言われて、ほっとしてる自分がいる」
それ以上は言わず、話を切るように続けた。
相「今日は、もう帰る」
一拍置いて。
相「…距離は、ちゃんと取る」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
「ま、待って」
相澤の背中に、思わず声が飛ぶ。
「…取らないで、ください」
相「……」
相澤は振り返らない。
相「…それ以上言うな」
低く、けれどどこか抑えた声。
相「…俺が、間違える」
少しだけ間を置いて、付け足す。
相「…ゆっくり休め。また明日な」
扉が閉まる。
相澤は車に乗り込み、シートに深く身を沈めた。
…最悪だ。
衝動で動いたことも、止められなかったことも。
それ以上に、が「嫌じゃなかった」と言った瞬間、胸の奥が緩んだ自分が、一番厄介だった。
距離を取る。
そう言ったのは、のためでもあるが、何より――自分のためだ。
このまま近くにいたら、守る側でいられなくなる。
教師として。大人として。
…それでも。
思っていた以上に、あの存在が自分の中で大きくなっていることを、もう否定できなかった。
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扉が閉まって、部屋に一人になる。
静かになったはずなのに、胸の音だけが、やけにうるさい。
…嫌じゃなかった。
そう言った自分の声が、頭の中で何度も繰り返される。
なんで、嫌じゃなかったんだろう。
尊敬してる先輩だから?
信頼してる先生だから?
唇に、まだ熱が残っている気がして、
思わず指で触れそうになって、慌ててやめた。
距離を取るって、言ってた。
それを聞いた瞬間、胸がきゅっと苦しくなった理由を、今はまだ、言葉にできない。
でも、この日から相澤消太という存在を、意識せずにいられなくなった。
それだけは、確かだった。