第1章 光を厭い 光に憧る
母の柔らかい腕に抱きしめられ、父の大きな手が優しく私の頭を撫でてくれる。
―いい子ね、白失―
―よくやったぞ。白失のおかげで父さん達は大金持ちだ―
それは春の日差しのように穏やかで温かな日々……
個性を使う度に褒めてくれた両親との思い出。
あの頃の私はとても幸せで、この世に不幸が存在するなんて知らなかった。
……それを塗りつぶしたのは大きなサイレンの音と制服を着た男の人達。
―白失!私達に個性を使いなさい!―
これまで私が個性を使う相手は両親に連れられて入った店の店員ばかりだった。
両親に使うなんて考えたこともなかった。
だって、私の個性を使ったら……
―白失、お願いだ。父さん達を助けてくれ!―
渋る私の肩を父が強く掴み、母の手が私の頬を包み込んだ。
―大丈夫よ、白失は私とお父さんの大切な娘だもの。忘れるのは少しの間だけ、少ししたらちゃんとあなたを思い出すわ―
家の外ではパトカーの赤いランプが明滅しており、玄関の扉のすぐ外では男の人が鍵を開けるようにと怒鳴っているのが聞こえる。
時間がないのだと幼い私にも理解できた。
……だから両親に乞われるまま個性を使った。
一度は忘れてしまうけれど、私のことを思い出したらきっととても褒めてくれる。
また抱きしめてくれて、頭を撫でてくれる。
そう信じて……
「こんな子、知らないわ!」
「俺達に娘なんていない!」
そう言われてすごくすごく悲しかったけれど、我慢した。
でも、
その後すぐに両親は窃盗を繰り返していたとして逮捕されたと聞いた。
施設に入った私は、職員に咎められて初めて無許可で他人に個性を使うことが悪いことだと知った。
光が溢れていた私の世界が音を立てて崩れ去った―……
そうして今、
私はヒーロー公安委員会にいる。