第17章 …不惜身命
ゾロは吐き捨てる様に言うと、布団の上から彼女の左肩に、大きな右の掌をそっと置いた。
ゾロの内に流れる熱が、彼女の冷たい闇を溶かす様に伝わって行く。
その不思議とも言える熱にハーデスは驚き、恐る恐る振り返る。
彼女の瞳に、死皇帝の姿が映り込む。
「さっきあいつが言ってた事は、おれが重傷で寝てる間に、あいつが勝手にやった事だ。おれは頼んじゃいねえし、やましい事は何一つねえ……下らねえ妄想して、気にしてんじゃねえよ」
「え……」
ゾロの右目が、彼女の美しいペールパープルの瞳を、力強く見据える。
「言った筈だぞ。お前はもうおれ達の仲間で……何より、おれの大事な側近だってな。このおれが認めたんだ。誰が何を言おうと、お前は引け目を感じる必要はねえんだ」
それはこれ以上ない、死皇帝の心……魂からの言葉だった。
その言葉が胸の奥……魂に迄静かに響き渡った瞬間、ハーデスの瞳から堰を切った様に大粒の涙が溢れ出した。
幼い頃から否定され続け、暗闇の中で息を潜めていたその心に、温かな光が灯る。
(……この方の為に……私は、身も心も……全てを捧げる……)
溢れる涙を拭おうともせず、ハーデスは何度も何度も、深く頷いた。
彼女の強い決意がゾロの心にひしひしと伝わって行く。
命懸けでここ迄来た彼女の気持ちは、やはり『本物』だった。
並の男であれば、その重過ぎる気持ちに引いてしまうのだろうが。
「……おい、泣くなよ……何だかおれが泣かしたみてえじゃねえか……」
ゾロは少し困った様に苦笑しながら、枕元に畳んである手拭いを一枚、彼女の顔に、そっと乗せてやった。
それからチョッパーが戻る間、彼女が命懸けで護り抜いた機密文書にざっと目を通して行った。
数十点に及ぶ世界政府の機密資料や写真、マリージョアの地図、一部ではあるがそこに建っているパンゲア城の内部構造等、重要な情報ばかりである。
それには勿論『虚の玉座』を支配している者と、その取り巻きに関する存在の情報も書かれてあった。
(ネロナ・イム……五老星……神の騎士団か……なるほど、海軍の他にも、かなりの戦力を擁している様だな……)
ゾロは顔色一つ変えず、文書や記録を黙読して行く。
だが、とある記録を目にした時。