第15章 ・決意
「派手なステージは勿論好きだが、最後はこう言う所に戻りたくなるんだ。騒がしいトウキョウにも、静かな夜はある……おれは、この静けさが好きなんだ」
そう呟いたロックスターの表情は、穏やかだった。
個室を照らす赤提灯の灯りが音もなく揺れ、畳に静かに落ちている。
魔界でも青い星の海でもない、異世界の『人の街』。
ゾロは静かに揺れる赤提灯にまた視線を移すと、ポツリと呟いた。
「ああ……この大都市も、悪くねえ」
ゾロは腕を組み、静かに目を閉じる。
そんな彼を見て、ロキは頭を掻きつつ、苦笑いを浮かべた。
「……本当はな、まだまだ見せたい場所が沢山あるんだよ。雷門もスカイツリーもトウキョウ駅も……『トウキョウの守護神』にも、会わせてやりたかったなあ……まあ、流石に一日じゃ周れねえから、そっちの世界が落ち着いたら、また何時でも来いよ」
その言葉に、ゾロは思わず目を開けた。
「トウキョウの守護神?そんな奴、いるのか」
「おうよ!昔々……関東の民を護る為に挙兵した英雄だ。本当はご挨拶に行きたかったんだが、奴等の事もあってご多忙らしくてな」
「そうなのか……まあ、何時か会えるだろ。お前の方から宜しく伝えておいてくれ」
ゾロが微笑んだその時、個室の前で誰かが立ち止まる気配がした。
……古めかしい木目のテーブルに置かれたグラスから、氷のぶつかる澄んだ音が耳に届く。
届いた料理を前に、ゾロとロキは酒を手に、静かに乾杯をする。
「この国じゃ、清酒を『ニホン酒』と呼ぶ。これは、ロックを楽しむ為に造られた純米吟醸……玉川 Ice Breaker……その名の通り『緊張を解し、場の雰囲気を和らげるもの』……この国の職人の魂が籠った酒だ。飲んでみてくれ、Brother」
ゾロがグラスの酒を口にすると、爽やかな香りと程良い苦味、鋭いキレが、五臓六腑に染み渡った。
「……ああ、確かにいい酒だ。刀の刃の様に澄んでて……キレもいい」
「流石、清酒が好きなだけあるな。まだ二十一年しか生きてねえのによ……趣味が渋過ぎだろ。お前、何時から飲んでるんだ?」
「十六の時から飲んでる。おれが生まれ育った村は、こっちの世界みてえに細かい法律なんてのはねえからな。まあ、殺人とか盗みは、そりゃ罪になるけどよ」
ゾロはそう言って笑った。