第15章 ・決意
間もなくすると、個室の扉をノックする音が聞こえ、先程のスタッフが姿を現した。
「ええと……おれは何時ものビールと、刺身二人前、それと鯖の塩焼き二つと……清酒の辛口でオススメの奴を頼む」
「清酒は、熱燗、冷、ロックのどれになさいますか?」
聞かれたゾロは、おしぼりで手を拭きつつ、少し考えてから答える。
「ああ……ちょっと暑いしな、ロックで頼む」
「かしこまりました。では、『玉川 Ice Breaker』は如何でしょう?ロックの為に作られた、味わいの変化が楽しめるスッキリした飲み口のお酒ですよ」
「味わいの変化、か……そりゃ、旨そうだな。じゃあ、それを頼む」
「かしこまりました、玉川 Ice Breakerの五百ミリリットルをお持ちしますね。では、暫くお待ち下さいませ」
スタッフは頭を下げ、扉を閉めた。
ゾロは伸ばしていた足を掘り炬燵に入れると、テーブルの下で右の掌を握り締めた。
あの楽器店で触れた金属の棒……アームの感触が、その肌に蘇る。
『まだ早い』
店主はそう言ったが、アームをぐっと押し込んだ時の感覚が、忘れられなかった。
滑らかに元の位置へ吸い付く様に戻る感覚……掌へのキックバックは、意外にも軽かった。
低く唸る獣の叫び声に似た音が、耳の奥で鳴り響く。
「……あのアームって奴、本当面白れえな。斬る様な音になったり、低く唸ったりしてよ」
その呟きに、相変わらずメニューを眺めているロキが思わず視線を上げる。
「……どうやら本当に魅入られたみたいだな。ケーラーのアームは特に滑らかだ。力任せじゃなく、繊細にコントロール出来る……やっぱりお前なら、すぐに手懐けちまうだろうな」
「修業が必要だって言われたが……望むところだ。刀と同じく、とことん修業し捲ってやるよ」
ゾロは不敵に口端を上げると、ギターケースに視線を移し、掌を力強く握った。
街の喧騒は遠く、壁の向こうから聞こえるのは、微かな客の笑い声と炭が爆ぜる小さな音だけ。
掘り炬燵の中で足を伸ばしつつ、ゾロは口端を上げた。
「……悪くねえな。おれは好きだぜ、こう言う場所」
「だろ?」
ロキも笑みを浮かべながら肩の力を抜き、テーブルに肘を置いて頬杖を突いた。