第14章 ・新境地
右手の紙袋をロキに渡すと、丸襟に引っ掛けていたサングラスを手に取り、徐に顔に掛けた。
漆黒の太いフレームが特徴のウェイファーラー……サングラスを掛けると、眩し過ぎる街の光が程良く抑えられ、落ち着いた視界に変わる。
ロキは彼に紙袋を渡しながら、口端を上げた。
「このレザーパンツとサングラス、やっぱり買って良かったな、本当に似合ってるぞ」
「あぁ?……だから普通だって……」
「いやいや、冗談でなく……ほら、みんな振り返ってるぜ」
言われたゾロは歩きながら、辺りを見渡した。
確かに、通り過ぎる女の子達が振り返り、ゾロにチラチラと視線を送っている。
と、同時に、その中でも特に強い思念が彼に届いた。
(……きゃー!彼……すっごくイケてるー!……)
(……やだ、夜にサングラスとか、なんかちょっと怖っ……)
(……見ちゃダメ見ちゃダメ……絶対危ないお兄さんよっ……)
(……あの男の人……とっても逞しい体してる……素敵……)
街行く女達の様々な心の声に、ゾロは思わず後退りした。
しかし彼は、気付かぬ振りをする。
「……そうか?」
「ん?なんだよその照れた声は」
「照れてねえ」
「はいはい、そう言う事にしとくよ」
相変わらずのゾロに、ロキは苦笑しつつ答えた。
その時、遠くの空から微かに低く響く、何かの唸り声の様な音がゾロの耳に届いた。
彼は視線を空に向ける。
「……この空に響く音、昨日からたまに聞こえるんだけどよ……一体、何の音だ?」
彼は高層ビルの隙間から覗く、狭い夜空を見上げる。
その音は何処かに吸い込まれる様に、静かに消えて行った。
ロキは高層ビルの合間に見える、遠くの空を行く点滅する光を指差し、微笑んだ。
「ああ、あれは『飛行機』とか『ジェット機』とかって呼ばれてる奴だ。人間が作った鉄の鳥……空を飛ぶ乗り物だよ」
「そうか、あれがオセが言ってた『空飛ぶ鉄の乗り物』なのか……」
「お前の世界には、はないのか?」
「ねえな……あったとしても、おれが見たのは『空飛ぶ船』だ」
聞いたロキは仰天した。
「空飛ぶ船だって!?そんなもん、こっちの世界にゃねえぞ!!」
「……そうなのか?いや、あの空飛ぶ船は、恐らくおれの世界にも、あの一隻しかねえ筈だ」
ゾロの脳裏に、二年前の出来事が浮かぶ。