第9章 ・宿命
ルシファーはハンチング帽を外し、前髪を指で整えてからまた被り直す。
廊下の細い窓からは、白く霞んだ光が差し込み、床に薄い模様を落としていた。
彼は腕時計にちらりと視線を落とす。
「もう昼を過ぎてたのか……ところでゾロ。この後から明後日の夜迄、君はフリーなんだ。何処か行きたい場所はあるかい?」
「あー……行きたい所かあ……色々あるんだけどな、日にちもねえしなあ……」
ゾロは腕を組み、顎に手を当てて考える。
ダアト、真魔界、そして地球……自分が生まれ育った世界。
行った事のない場所の方が多いと、今更ながらに気付く。
(……エジプトもいいけど、時間足りねえしなあ……あ、そうだ……)
行きたい場所を決めたゾロは、口を開いた。
「おれよお、トウキョウに行ってみてえんだけど……」
「トウキョウか、それはいい選択だね。僕も昔からあの大都市が好きでね。散歩がてらに良く遊びに行ってるんだ……それなら、案内役の仲魔を付けてあげるよ」
「マジか!!そりゃありがてえ……あ、でも……お前は行かねえのか?」
ゾロの声音に、ほんの少しの期待が滲む。
ルシファーは静かに笑い、軽く息を吐いた。
「行きたいのは山々なんだけどね。やらなきゃならない事があるのさ……本当は僕も散歩に行きたいんだけど」
「……ああ、そうか……奴等の事か?作戦会議とか……」
「流石、その通りだよ。奴の残党さえいなければ、もう少し自由に遊べたのになあ……」
「作戦会議なら、おれも行った方がいいんじゃねえか?」
「いや、君にはもうやって欲しい事を伝えた。それで十分だよ。それに……残りの日は、ゆっくり楽しんで過ごして欲しいんだ。来るべき戦いに備えてね」
その言葉に、ゾロは腕組みをする。
恐らく……いや、確実に戦争になるだろう。
しかも、故郷の青い星で。
彼は納得し軽く頷くと、ルシファーに言った。
「……来るべき戦い……そうだな……じゃあ、お言葉に甘えて、楽しませて貰うぜ」
「是非そうしてくれ。そうそう、君の荷物はゲストルームに置いてある。明日の朝、案内役を君の部屋に連れて行くから、今日はそこで休むといい」
ルシファーはそこで足を止め、軽く片手を掲げる。
「……ヒーホー君、来給え」
床に青白い魔法陣が展開し、そこから可愛らしい二頭身の雪だるまが飛び出した。