第24章 想いを、繋ぐために
彼女は、目を細めて、そっと笑った。
それは──胸の奥にしまった記憶を、大事に撫でるような仕草だった。
言葉より先に、その微笑みがすべてを語っていた。
『……その人は、今も”No.2ヒーロー”として、最前線に立ち続けています』
『ただの一度も、楽な道なんて歩いてこなかった。
誰よりも傷ついて、誰よりも誰かを守ろうとして……それでも、ずっと独りで戦ってきた人です』
『……誰にも気づかれない場所で、彼は“誰かのために”戦い続けていたんです』
『そして……荼毘が言ったような“誰かを殺した”というのは、事実じゃありません』
『トゥワイス……分倍河原 仁は、生きています。
彼は、命を奪ってなんか──いない』
その瞳が揺れた。
けれど、それは告発ではなかった。
ただ、真実を静かに、まっすぐに届けようとする光だった。
『彼もまた……過去に、大きな傷を抱えていました。
決して、人に見せることのない痛みを、ずっと胸にしまって──それでも、前を向いていた』
『私は……そんな彼を、誰よりも尊敬しています』
一瞬、彼女は言葉を止めた。
その目が伏せられ、胸の奥にふれたように手がそっと動く。
『私も、彼のように……誰かの痛みに、ちゃんと立ち会える人間でありたい』
『そして──彼の隣に立てるような、そんな自分でありたいって、願っているんです』
その声は、やわらかく、けれどしっかりと地に足をつけていた。
もう誰かに憧れるだけじゃない──“隣に並ぶ”という、強い意志。
『……そして、彼の言葉を借りるなら──』
ふっと、彼女の表情がやさしくほどけた。
その横顔には、まるで“あの人”と同じ光が宿っていた。
『“ヒーローが、暇を持て余す世の中”を。──私も、本気で作りたいと思っています』
──それは、ひとつの祈りだった。
誰かを守りたいと願う者が、誰かの想いに救われた者が、
“いま”という場所から“未来”へと手を伸ばす──まっすぐで、静かな誓い。