第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
「──はっ、これはすごい!すごいぞ!」
スケプティックの手が、ぴたりと止まった。
青白いモニターに浮かび上がるのは、星野 想花という名と、“想願”という個性の解析データ。
閲覧権限コードは最上層、公安機密と同等。
そのどれもが、彼にとっては“御褒美”でしかなかった。
「この力……理想的だ。いや、奇跡だ。
この“想願”があれば……リ・デストロが求めた“真の解放”が、成される……!」
画面の前で、ぶつぶつと呟くスケプティックの眼が異様に輝いている。
感情の発露というより、“熱病”のような興奮が滲んでいた。
一方で──
その後ろに立つヴォイドは、変わらず無表情で、動かなくなった少女を見下ろしていた。
彼女の瞳は虚ろで、焦点もない。
全身の力が抜けて立っているだけのように見えるが、それは“自律制御”によるもの。
意識も思考も、深層まで、ヴォイドの能力下にある。
「……どうやってここに?」
スケプティックの言葉に反応するように、少女の唇がかすかに動く。
「──公安の指示により、潜入していました」
その瞬間、部屋の空気が張りつめた。
スケプティックが、一拍置いて嗤う。
「……公安、か。あの羽根モノと同じ匂いがすると思ったが……なるほど、腑に落ちたよ」
彼の手が再びキーボードを走る。公安との関係性、活動履歴、関与ヒーロー。
全てが芋づる式に現れてくる。
「じゃあ……聞かせてもらおうか」
彼は、ふっと笑った。
「お前と──ホークスの関係を、な?」
その瞬間。
少女の眉が、微かに動いた。
ささやかな、けれど確かな違和感。
完全制御下にあったはずの“意識”が、何かに触れて揺れた。
ヴォイドが、すぐに異変を察知する。
「……意識深層、干渉を拒んでいます。
過剰な感情反応により、連結が不安定化している」
「ふん……“感情”、ね。まさに厄介な個性だよ、全く」
スケプティックは不快げに舌打ちをしたが、手を止めた。
彼女の思考が混線すれば、せっかくの資源が台無しになる。
「戻せ、ヴォイド。状態を安定させろ。深く追うのは後だ」
「──了解」
低く、冷ややかな声。
ヴォイドの手が再び、静かに差し伸べられる。
その瞬間、少女の意識は深く、深く、何も感じない場所へと沈められた。