第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
「……確かに」
ぽつりと、スピナーが呟いた。
「お前の言う通りだ。死穢八斎會のとき……アイツ、お前の命を助けたな」
トゥワイスもまた、うなずくように口を開く。
「でも、でもよ……! 俺たち、あの子のこと──」
言葉に詰まりながらも、彼は必死に続けた。
「最初、拉致して……ボロボロにして……! 荼毘なんて特にひどかった!
それなのに……なんで、助けてくれんだよ……? なんで、そんなこと……!」
言葉の端に、戸惑いと、恐れと、ほんの少しの罪悪感が滲んでいた。
コンプレスは答えず、ただ目を伏せたまま、ふっと微笑む。
「……あの子は、俺たちのことを憎んでさえいないんだ。きっと、心のどこかで……ずっと、許していた」
どこか寂しげに、けれど柔らかく。
「変わってるよ、本当に。まるで……敵じゃないみたいだった」
その言葉に、スピナーが眉をひそめる。
「……それだけで、信じたのか? お前は、“あの子”を」
問いかけというより、確かめるような声音だった。
コンプレスは、少しだけ視線を落とし、口を閉ざす。
短い沈黙のあと、彼は、ゆっくりと口を開いた。
「……違う」
静かな声だった。
「俺が信じたのは──あの夜、だ」
誰もが、息をのんだ。
「公安に裏切られたあの子が、一人きりで、ここにいた。あの目が――俺を見て……泣いていたんだ」
彼の声は、どこか遠くを見つめているようだった。
「助けてくれなんて言わなかった。ただ、“取り出して”って。
心臓の近くに埋められた装置を……震えながら、自分で見せて……」
拳を握る音が、小さく響いた。
「公安は、正義を謳いながら、彼女の身体を縛ってた。
……たった16の子どもに、こんなやり方をしてたんだよ。まるで飼い慣らすように──」
言葉の最後が、喉でかすれた。
スピナーも、トゥワイスも、トガでさえ何も言えなかった。
ただ、目を伏せ、静かにその場の空気を噛みしめていた。
あの少女が、どれほどのものを背負ってきたのか。
“敵”である自分たちさえ、今ようやく、その片鱗を知った気がした。