第22章 繋がる鎖、壊れる仮面

「──なあ、コンプレス」

沈黙を破ったのは、スピナーの低い声だった。

「お前……いつから知ってた？」

その問いに、トゥワイスの顔がぎこちなく動く。
すぐには口に出せなかった言葉が、ぽつりと零れ落ちた。

「“カゼヨミ”がヒーローの卵だったってこと……
想花って名前も、ほんとの顔も……全部、知ってたんだろ？」

部屋に微かに響いたのは、衣擦れの音。

コンプレスは、答えなかった。
けれど、その沈黙が何よりの肯定になっていた。

「……どうして黙ってたんだよ」

トゥワイスの声が揺れる。
怒りじゃない。けれど、裏切られたような、寂しそうな──そんな声音。

「俺たち……アイツを信じてたんだぞ？ 俺、何でも話してた。
それなのに、なんで……！」


「信じてたからさ」

ようやく、コンプレスが口を開いた。
静かで、それでいてどこかに熱のある声だった。

「彼女が“想花”だって気付いたのは──出会ってすぐだ」

その言葉に、部屋の空気がわずかに震える。
沈黙のなか、コンプレスはゆっくりと続けた。

「異能解放軍との戦いのとき……俺はまた、彼女に命を助けられた。
俺を殺そうと思えば簡単だったはずなのに、彼女は──手を伸ばしてきたんだよ」

その声音に、怒りや悲しみはなかった。
ただ、真実だけがそこにあった。

「覚えてるだろ？　死穢八斎會の時……」

ぽつりと落ちたその一言に、トゥワイスの目がわずかに見開かれる。

「“敵”だった彼女が、傷を負った俺の腕を治した。
……アイツは、最初からああいう子だったんだ」

不器用に笑いを滲ませながら、コンプレスは肩をすくめる。

「黙ってたのは、俺が……彼女を“信じた”って証だ。
どちらかを選ぶ必要なんてなかった。俺は、ただ……」

──その先を言葉にする前に。
沈黙が、再び部屋を包み込んだ。

誰もが──あの夜のことを思い出していた。

血と硝煙の匂い。
崩れた瓦礫の中で、伸ばされた彼女の手。
“敵”として生きるには、あまりにも優しすぎた誰かの顔を──