第22章 繋がる鎖、壊れる仮面
想花side
荼毘が、一歩、こちらへ足を進めた。
焼け焦げた大地に靴底をこすりつけるようなその音が、やけに大きく響く。
沈黙の中、彼の手が──伸びてくる。
誰にも触れさせたくなかったこの身体を。
彼が、何の躊躇いもなく、掴んだ。
「……立てよ」
低く、吐き捨てるような声。
断れなかった。
拒まなかった。
ただ、掴まれたまま、私は引き寄せられた。
その熱を帯びた掌が、腕を通して心臓まで届いた気がした。
私の身体が、彼の隣に並ぶ。
すぐそこに、荼毘の体温。
焼けるような気配と、呼吸。
誰かのために選んだ選択なのに──
こうして立たされると、自分が誰なのかわからなくなる。
その瞬間。
「……って、おいおいマジで言ってんのか荼毘?」
トゥワイスの声が、遠くから飛んできた。
肩越しに、スピナーも顔をしかめている。
「コイツ、ヒーロー側の人間だったんじゃ──なぁ、どうすんだよ。こんなの上に報告したら──」
「……」
荼毘は、振り返りもしなかった。
私の腕を掴んだまま、まっすぐ前を見たまま、言い放つ。
「こいつは、もう“俺たちの仲間”だろ」
その言葉に、一瞬、空気が止まった。
誰も、それ以上何も言えなかった。
いや、荼毘の声が、それを許さなかった。
言葉の重さも。
彼が、どこまで本気かも。
みんな、肌で感じていた。
私は声を出せなかった。
喉が詰まったわけじゃない。
ただ、言葉にできなかった。
“仲間”と呼ばれたことで、
一番、傷ついてるのは──たぶん、私自身だった。
この肩書きが、誰を裏切るものなのか。
どこまでを壊してしまうものなのか。
わかってるのに。
でも。
それでも──今、ここにいる。
守るために、ここを選んだ。
壊さないために、壊れることを受け入れた。
そして、
荼毘の隣という位置が、どれだけ多くの線を踏み越えるのか──
これから、痛いほど思い知るのだと、わかっていた。