第6章 また明日
私は、捕らえられた脚とは反対の足を振り上げた。
『……っ、はあっ!!』
全力の膝蹴りが、ヴィランの顔面に炸裂する。
鈍い手応えが伝わる。脚にかかる異様な圧力で骨がきしむ感覚さえしたけど、それでも構わなかった。
負けるわけには、いかない。
「もうおしまいだねぇ、お姫様」
笑ったその顔が、わずかに揺らぐ。
私は、じっと彼の目を見据えながら、小さく笑った。
『……ふふっ』
自然と浮かぶ笑みは、恐怖ではなく――ただ、確かな自信からだった。
「……?」
男の目がすっと細められる。
『“身体能力強化”だけだと思った?』
その一言に、空気が震える。
意識を集中する。足元から風が巻き上がり、重たかった空気が、ひと息で吹き払われたように澄んでいく。
『……これで、終わらせる』
手を振ると、巻き上がった風が鋭くうねり、前方へと一斉に飛び出した。
嵐のような圧力とともに、無数の風の刃が男を包み込む。
「な、なんだよ、これ……っ!!」
叫び声は風にさらわれ、あっという間にその姿が地面へ崩れ落ちた。
(…急がなきゃーー)
その背中に、ふわりと風が触れる。
まるで羽ばたくように、蒼い翼の幻が広がるのを感じた。
身体がふわりと軽くなる。
でも、心は、ずしりと重く、でも確かな力を得ていた。
『……みんな。どうか、無事でいて』
そう願いながら、私は風に身を乗せて、仲間のもとへと駆けていった。