第20章 仮面と素顔
――視線を、感じた。
はっとしてそちらを向く。
ソファの背にもたれたまま、動かずにいた荼毘が、
じっと、こっちを見ていた。
目を細めて、顔は笑ってない。
なのにその目は――
何かを見透かすように、じわりと熱を持っている。
『……』
目が合った。
でも、彼は何も言わなかった。
ただ、静かに。ずっと見ていた。
(……まずい)
その一瞬で、私は我に返る。
表情をきゅっと引き締め、声も抑えたトーンに落とす。
『……無駄話は、ここまでで』
さっきまでの温度が嘘みたいに、
“カゼヨミ”としての仮面を被り直す。
トゥワイスはぽかんとし、トガは「あ、戻った♡」と軽く笑った。
「つまんないの~もっと笑ってようよ~」
「戻っちゃったー!おれのせいか!?荼毘のせいか!?なぁどっちだ!?」
「……しらねぇよ」
荼毘はそれだけ呟いて、視線を外した。
そんな空気の中――
「おい……そろそろ時間だ」
ドアが開いて、スケプティックの冷たい声が響いた。
その後ろには、スーツ姿のトランペット。
「集合場所へ移動を。行動隊長の正式発表だ」
現実が、再び目の前に差し出される。
『……了解しました』
私は立ち上がる。
表情は、もう戻っている。
たとえ、さっきまで笑っていたとしても。
たとえ、彼らの言葉に少しだけ救われたとしても。
ここは敵地。
ここは、仮面の場所。
私が“笑っていい”場所じゃない。
「んじゃ、また帰ってきたら続きをやろーぜ!」
「今度はウニ、私が食べさせてあげます♡」
背後から飛んできた言葉に返事はせず、
私は淡々と歩き出した。
でも、手袋の下の指輪だけが、微かに熱を宿していた。
――私は、ちゃんと、帰る場所がある。
そう信じたまま、扉の向こうへと足を進めた。