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【ヒロアカ】re:Hero

第20章 仮面と素顔



「さっきの会合、黙って聞いてたがよ――
どうも、お前が“ただの新人”って感じがしねぇんだよな」

部屋の空気が、わずかに重くなる。
空気の振動でさえ、肌にまとわりつくようだった。

その言葉に、息が詰まりそうになる。
けれど、顔は動かさない。感情も揺らさない。

『“目”をつけられたのは……初めてです』

「目ぇじゃねぇよ。気配だ」

荼毘は低く、どこか火種をくゆらせるような声で言った。

「……この間もそうだった。
風で俺の炎を正確に打ち消して、タイミングも完璧。
それだけじゃねぇ。“焼かれ慣れてる”動きだった」

足元の床板が、わずかに軋む。

『……光栄ですね、そんなふうに覚えられてるなんて』

荼毘の目が細められ――その双眸は、炎の奥のように揺らいでいた。

「お前……昔、俺と会ったことあるだろ」

一瞬、空気の密度が変わる。

心臓が跳ねる。
だがそれすら、気配に乗らないよう慎重に押し殺した。

『さあ……他人の顔なんて、いちいち記憶してませんから』

静かに、冷たく返す。
けれど――その言葉が終わるよりも早く、荼毘の足音が近づいた。

視界の端に、彼の影が差す。
そして次の瞬間、顎に指がかかった。
ぐっと上向かされる。

『……っ』

至近距離。
肌が焼けそうなほど近くで、荼毘の顔がある。

無遠慮に覗き込むその瞳は、笑っていた。
けれどそれは、遊び半分のものではない。
興味と嗜虐、それにほんの僅かな“既視感”――
そのすべてが、無言で圧をかけてくる。

「……その目つき」

ぽつりと呟くように言って、荼毘がさらに目を細めた。

「……“あの女”と似てるな」

指がわずかに動き、頬をかすめる。

「絶対に俺に屈しねぇって反抗的な目……ああ、そういうの、嫌いじゃねぇよ」

嘲るような低い声。
でもその言葉には、明らかに“何かを確かめようとする熱”が混ざっていた。

私は目を細め、言葉の代わりに――風を放った。

突風ではない。
けれど、鋭く押し返すような、横殴りの空気。

「っ……!」

荼毘の身体が、ふっと後ろに押しやられる。

彼はわずかにバランスを崩しながらも、すぐに持ち直し――
笑った。

「……はは。なるほどな」

遠ざかった場所から、こちらを見据える視線。

その笑みに、皮肉も挑発もない。
あるのは、ただ――純粋な「面白がり」だった。
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