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【ヒロアカ】re:Hero

第5章 交わる唇、揺れる想い


アパートの前は、夜の静けさに包まれていた。
街灯の淡い光に照らされて、黒く艶やかな髪がそっと揺れる。

「……じゃあ、また明日」

轟くんがそう言って踵を返す。
その背中に私は、どうしても声をかけたくて手を伸ばしていた。

――いつの間にか、彼の手を掴んでいた。

『……あの、ありがとう。今日も一緒に帰ってくれて』

言葉が震えないように、胸の鼓動を整えながら伝える。

彼は驚いたように振り返って、少し迷いながらも戸惑いを隠せない瞳で私を見つめる。

その時だった。

「……っ」

彼の顔が静かに近づいてきて、時が止まったみたいに感じた。

唇が重なる。

触れるだけの軽いキス。

でもそのほんのわずかな温もりが、確かに誰かの心に触れた証だとわかった。

離れたあとも、轟くんは目を見開いたまま動けずにいて、
自分の行動に戸惑いを隠せないようだった。

「……今のは……」

言葉になりかけて止まり、視線を逸らして、頬を真っ赤に染めながら、

「……じゃ、また明日」

そう言って背を向けて歩き始めた。

私はぽつんとそこに取り残されて、鼓動だけが大きく響いている。

『……うそ……でしょ……?』

そっと唇に指を当てる。
まだほんのりと温かさが残っているような気がして、

『ばか……ばか……ばか……!』

顔は熱くて、胸の鼓動は止まらない。

だけど、どこか嬉しくて、胸がぎゅっとなる。

月明かりの下、私はしばらく動けずに、その場所に立ち尽くしていた。
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