第19章 交差する影、歪む真実
ホークスside
廊下の足音が、不自然に響いていた。
誰もいない。けれど、見られている気配がある。
慣れているはずのこの場所が、今日はやけに息苦しかった。
公安本部──その最奥、極秘情報を扱う“無窓の部屋”。
(……ほんっと、こういう空気、嫌いなんよな)
それでもドアは静かに開けた。
身のこなしはいつも通り。余裕の笑みも、崩さない。
「失礼しまーす。急な呼び出しで……おれ、晩ごはんも抜きですよ?」
誰も笑わない。
円卓を囲む公安の幹部たちは、まるで彫像のような無表情だった。
「来たか、ホークス。――すぐに入れ」
「はーい、はいはい」
肩をすくめながらも、ホークスは指示通り席に着く。
すぐに、鋭利な空気が落ちてきた。
「異能解放軍が、ヴィラン連合の傘下に入った」
「……は?」
一瞬、思考が空転する。
「戦闘による明確な支配だ。
死柄木弔が“力”をもってデストロを従わせた。
今は統合作業の最中だとみられている」
「……ちょっと待ってください。それって……確定情報、なんですよね?」
「信頼できる筋からの報告だ。つい先ほど届いた」
「……」
ホークスは眉を動かさずに、ただ聞く。
「さらに、ヴィラン連合の能力は著しく上昇している。
とくに“トゥワイス”──個性『二倍』の拡張が確認された。
彼ひとりで戦局を変えうる、極めて危険な存在だ」
(……やばいな。最悪の未来、着々と進んどる)
静かに頷きながら、胸の奥に冷たいものが流れ込んでいく。
「……で、おれにどうしろと?」
「任務に変更はない。
君は引き続きヴィラン連合に潜入し、死柄木弔と接触を図れ。
彼の思想と行動原理を観察し、“掌握”しろ」
掌握――という言葉に、わずかに眉が動いた。
「……了解です。けど……正直、その情報、まだおれのとこには来てなかった内容なんですけど」
言いながら、視線だけで問いかける。
(それ、どっから仕入れたんですか)
「公安の独自ルートだ」
それだけの返答。
「……へぇ」
ホークスは足を組み直し、片肘をつく。
「独自って……それ、“どこ”から出たんですか?」
声は穏やか。
だがその瞳は、探るように相手を刺していた。