第19章 交差する影、歪む真実
ほんの少し前まで、
自分の中で暴れていた不安も、涙も、
彼の声が全部、静かに溶かしてくれた。
このまま、ずっと声を聞いていたい。
そう思った矢先――
画面の隅に、小さな通知が浮かんだ。
《非通知着信》
(……また)
見るだけで、背筋に冷たいものが走る。
まるでそこだけ、空気が変わったようだった。
『……ごめん、ちょっと……電話、来ちゃって。出なきゃいけないの』
そう告げる声が、思った以上に揺れていた。
「ん? ああ、そっか……」
ホークスの声が、ほんの少しだけ意外そうに返る。
「珍しいな、こんな時間に誰かからって。
……え、浮気とかやめてよー?おれ泣いちゃう。」
くすっと笑いながら、そんなことを言ってくる。
『……ばか』
その言葉に、自分でも驚いた。
だけど、その先は――もう隠せなかった。
『……好きなのは、啓悟だけだよ』
一瞬の沈黙。
「…………なにそれ」
くぐもった声のあと、
通話越しに小さな息がもれた。
「おま、お前……そういうの……反則やろ……」
珍しく、言葉が詰まる彼に
こちらまで胸がじんわりと熱くなる。
「……でも俺も、まじで好きだよ」
いつもの軽口とはまるで違う、
飾らない、でも真っすぐな声だった。
ただそれだけで、胸の奥がぎゅっとなる。
そして彼は、ぽつりと息をついた。
「だから……気をつけて。無理すんなよ」
名残惜しさと優しさが混じったその言葉とともに、通話が切れる。
画面が切り替わり、再び浮かぶ《非通知着信》。
躊躇はなかった。
私は、通知をタップし――
途端に、空気がひとつ、冷たく沈んだ。