第5章 交わる唇、揺れる想い
唇が触れたあとの沈黙は、言葉にできない感情で満たされていた。
爆豪くんはずっと無言のまま、でも手はしっかり離さずに――
私は隣を歩きながら、どうにか心臓のバクバクを誤魔化すように静かに息を吐いた。
『(顔、赤いの……ばれてないかな)』
ちら、と横目で彼を見ると、彼もまた少しだけ頬を染めているみたいだった。
お互いに気まずくて、でもどこか甘い空気がそっと廊下を包んでいる。
戻った教室の扉の陰から、まるで狙っていたかのように峰田くんが飛び出してきた。
「……ん? んんんんんんん?!??」
その声はまるで雷のようで、私の心臓が再び跳ねる。
「いまの……っ!見たからな!?なあ!?オレ、見たからな!?!」
爆豪くんは眉をぴくりと動かしただけで、峰田くんの大騒ぎは止まらない。
「ちょ、ちょっと!さっきさ!オレ、ちょっと心配で探してて!
そしたらそしたら!ぎゅうぎゅうの廊下で!壁ドンして!!…してた!!!!!」
『み、見たって……!?』
「だって見えるよ!?見えるとこでやってたし!!オレのせいじゃない!!」
「……テメェ、黙ってねぇと口ごと吹っ飛ばすぞ」
「ひぃぃっっ!!!!!!!!」
峰田くんは恐怖で全力ダッシュ、逃げ去っていった。
彼の後ろ姿に、命の危険を察知した者の気配が漂う。
『(うそ……もう誰かに見られた……!?)』
不安げに視線を落とす私に、爆豪くんがぽつりと呟く。
「アイツ………ぜってぇ殺る」
そんな彼の、どこか守ってくれているみたいな表情を見て、思わず私は笑ってしまった。