第18章 きみの隣、それがすべて
ステージ裏のざわめきが、少しずつ落ち着いてく。
俺は、人の波の少し後ろで――
制服に着替えて戻ってくる彼女を、ただ静かに待ってた。
しばらくして、ロッカー室の扉が少しだけ開いた。
ひょこっと顔を出すその仕草。
さっきのドレス姿とはまた違って、
どこかいつもの、彼女らしさが戻ってきたようで。
でも――やっぱり、可愛かった。
『……なに?じっと見すぎ』
ふっと笑って、冗談めかして言うその声が、少しだけ照れてて。
こっちはその分、いつもよりちょっと余裕を装ってみせた。
「別に? ただ……結果発表までの時間、俺にちょーだい」
そう言って、手を差し出す。
彼女がきょとんとしたまま、その手を取った瞬間、
俺は軽く指を絡めるように握り返した。
人混みを避けるように、廊下を抜けて、
階段を上る。
今日だけ立ち入り禁止になってる屋上。
でも、そんなもん、俺には関係ない。
ガチャン、と重たいドアを押し開けた瞬間、
夏の終わりの空がふわっと広がった。
まだ少しだけ、さっき彼女が舞った空の名残が残ってて、
風はやわらかくて、夕焼けには少し早い光が街を照らしてた。
屋上のフェンス際まで歩いたあと、振り返る。
制服の裾が風に揺れて、
彼女は、不安でもなく緊張でもなく、ただ俺のことを見てた。
『……どうだった? さっきの私』
そう言われた瞬間だった。
胸の奥が、きゅっと締まった。
たったそれだけの言葉に、理性なんか軽く吹き飛ぶ。
こっちが答えるより早く、
俺は彼女の頬に手を添えて、そのまま唇を塞いでいた。
彼女の目が大きく見開かれる。
固まったまま、何も言わない。
そっと唇を離して、視線を合わせる。
その瞳の中に、たしかに驚きと、戸惑いと、少しの――熱があって。
俺は小さく息を吐いて、笑った。
「……今日ここにきたもう一つの目的……
お前に変な虫つかんよう、牽制のためなのに」
彼女は何もいわず――ただ、じっと俺を見てた。
まっすぐに、全然逃げないその瞳に、
本音がこぼれそうになる。
ほんの少し、照れくさくて、でも真剣で。
その想いを、ぽつりと落とした。
「さっきので、もう全部意味なくなった」
ほんとは俺が、一番惚れ直して、
一番、やられとる。
それが悔しいんか、嬉しいんかもわからんまま、
俺はただ、彼女の手をそっと、もう一度握った。
