第17章 死穢と光の狭間で
「……っ、くそ……!」
治崎が、瓦礫を踏みしめながら立ち上がる。
乱れた息、土埃にまみれた顔。
彼の目が――揺れていた。
「なぜ……お前が……俺から離れる……」
囁くようなその声は、怒りでも恐怖でもない。
それは、焦りだった。
手放したくなかった。
壊したくなかった。
それでも壊れてしまった、何かを追いかけるような――焦燥。
治崎は、手を掲げる。
再び、私たちを取り戻そうとする動き。
「来い……まだ、終わってない……」
けれど。
「させないッ!!!!!!」
緑谷くんが、私たちを抱えたまま、
空中で踏み込むように――足に力を込める。
そして――
「やめてぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」
壊理ちゃんの叫びが、世界を貫いた。
ぶわっ――!
空間が裏返ったような、重力が消えたような感覚。
気づけば私たちは、天井のさらに向こう――
青空の下にいた。
(えっ……!?)
遥か下には、崩壊した死穢八斎會のアジト。
漂う瓦礫。舞い上がる煙。
壊理ちゃんの身体が、淡い光に包まれていた。
『これって……巻き戻しの……!?』
私の身体が、軽い。
胸の痛みも、視界の霞も、
手の震えも――すべてが、溶けていく。
『……っ、あ……』
私は思わず、自分の手を握りしめた。
(動く……怖くない)
それは、“壊れる前の私”に、戻った証だった。
「……壊理ちゃん」
私がそう呼ぶと、
彼女はぎゅっと服を握ったまま、顔を上げた。
「……こわかったの……
おねえちゃんが……」
その一言だけで、
私の胸の奥が、ぐらりと揺れた。
涙が滲みそうになるのを、どうにか飲み込んで。
『ありがとう……でも、もう大丈夫』
私は、もう一度、前を見た。
空を駆ける、この一瞬。
命が繋がった、この場所で。
“この手で、終わらせる。”
そう決めた私は、構えた。
壊理ちゃんの想いを背負って。
――もう、誰も壊させない。