第16章 監視された想い
「彼女に……何かあったら──」
言いかけた俺の言葉を、
奴はまるで“思い出したように”遮った。
「ああ、そうだ」
そう言って、スーツの胸元を軽くなぞる。
──ちょうど、心臓の少し下。
「彼女には“措置”が施されている」
「発信機だよ。正確には──心臓付近に埋め込まれた監視端末だ」
頭に血が昇るのがわかった。
それでも、足は動かない。
今、俺が一歩踏み出したら、何かが終わる気がして。
「……てめぇ、何してんだよ」
声が低く、勝手に震える。
抑えてるのが、自分でもわかった。
でも、そいつは平然と続けやがった。
「念のため、だ。攻撃機能はない」
「ただ、彼女の心拍・脳波・位置情報・行動記録──」
「全てこちらでリアルタイム監視している」
「彼女の安全のためでもある。もちろん、“君のようなイレギュラー”が現れた場合の対策でもある」
怒りで指が震えた。
でも、それ以上に、胸の奥を締めつけてきたのは──
悔しさだった。
あいつの体に、そんなものを。
それを、本人は……。
「……最低だな」
なんとかそれだけ吐き捨てて、拳を握り込む。
もう、これ以上話すことなんて──
そう思った瞬間。
奴が、わざとらしく時計に目を落としながら言った。
「──君は疑問に思わなかったのか?」
「なぜ彼女は、公安の命令に従って動いているのか」
一拍置かれる。
そのあと、何も知らないふりで、
まるで“優しさ”みたいな声で。
「鷹見啓悟……君を守るためだよ」
瞬間、心臓が止まったみたいだった。