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【ヒロアカ】re:Hero

第5章 交わる唇、揺れる想い


「じゃあ……俺、そろそろ」

そう言って立ち上がった轟くんが、玄関の方へ向かおうとした瞬間だった。
バラララッと、急に窓を叩く大きな音が響いた。

『……え?』

一瞬で空気が変わった気がして、私は慌ててカーテンをめくる。
目に飛び込んできたのは、真っ白にけぶった窓と、強く吹きつける雨の景色。

『うわ……すごい雨。音までこんなにって、これしばらく止まないかも』

雨脚は強まるばかりで、風も時折ゴウッと唸っている。

轟くんも窓の外を眺めながら、少しだけ眉を寄せた。

「……傘、持ってきてない」

その言葉に、私は自然と笑みがこぼれていた。

『だよね……じゃあ、無理に帰らなくてもいいよ?』

そっと彼の方を見ながら、言葉を続ける。

『ね、よかったら止むまで、ここでゆっくりしてって?』

ほんの一瞬だけ――彼と目が合った。

彼は少しだけ目を細めて、微かに口元を緩める。

「……じゃあ、少しだけ甘えさせてもらう」

その柔らかな返事がうれしくて、私は笑いながらリビングへ向かった。

私は笑って、ソファの背をぽんぽんと叩く。

『座ってて。紅茶、入れ直してくるね』

そう言ってキッチンに向かう。

さっき淹れたポットは、すでに冷めかけていた。
でも――今のこの空気には、もう一度、あったかいやつが必要な気がした。

新しいお湯を沸かしながら、ちらりとリビングをのぞく。
轟くんは、まるで遠くの雨の音を聴くように、静かに窓の方を見ていた。

(……少し、疲れてるのかな)

ポットのスイッチが小さく鳴って、ティーバッグから広がる香りにふわりと包まれる。
さっきよりも、少しだけ甘めにしてみた。理由なんて、ないけど。

『おまたせ』

彼は小さく「ありがとう」と言って、両手でそっとカップを受け取った。

そしてまた、ほんのりと笑った。
まるで――この雨に閉じ込められた時間が、悪くないって、思ってくれているみたいに。

私もその隣にそっと腰を下ろす。

雨の音だけが、ふたりの間をやさしく満たしていた。

(……こんなに静かなのに、こんなに心が満ちてるなんて)

私はカップを手にしながら、ゆっくりと息を吐いた。

今日はまだ、終わりそうにない。

でも――この夜なら、もう少しだけ続いてくれてもいいかなって。
そう思った。
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