第14章 仮免の向こう側【R18】
想花side
気がつくと、部屋の中はほとんど真っ暗で、
部屋の外の街灯だけがぼんやりとカーテンの隙間を照らしていた。
寝返りを打った拍子に、ふわりと隣の温度に気づいて、
そっと顔を横に向ける。
『……啓悟……』
啓悟が寝てる。
信じられないくらい静かで、すぅすぅと小さく寝息を立ててて、
あの人がこんな無防備に隣にいるのが、なんだか夢みたいで。
『……寝顔なんて……』
無意識に指先が伸びて、そっと髪を梳く。
汗で少しだけ乱れた前髪の奥に、
こんなに綺麗な睫毛が隠れてるなんて、
初めてちゃんと見た気がする。
『……ずるいなぁ……ほんと……』
かすれた声が、小さく夜に溶けた。
あんなに大人ぶって余裕そうにして、
全部わかってるみたいな顔して――
なのに、気づけば私のほうがまた、全部掴まれてる。
息を呑んで、視線を落とす。
啓悟に触れられているみたいに、
指に小さな冷たい感触が乗っていた。
『……指輪……』
ゆっくり、確かめるみたいに右手を持ち上げる。
月明かりを反射して、小さな赤い石がきらりと光った。
『……同じ色……』
泣いちゃいけないのに、
胸の奥から滲んでくるものを止められなかった。
啓悟はきっと、言葉で「縛る」ことなんてしない。
プロで、大人で――
でも、その代わりに、こんな形で私だけにわかる鎖をくれる。
『……ずるいよ……啓悟……』
声に出した途端、喉が震えて、ぽろぽろと涙が溢れた。
でも泣きながらも、指輪を外そうなんて思わなかった。
むしろ、ぎゅっと手を握りしめて、
心臓の奥にもっと沈めたくなるくらい、愛おしくて苦しくて。
そっと横を向いて、まだ静かに眠る啓悟の肩に額をあずけた。
『……ずっと……ずっと一緒にいて……ね……』
届かない声で、誰にも聞こえない約束を落とす。
温かい人の匂いと、途切れそうな寝息と、
小さな赤い光を抱いたまま――
もう一度、まぶたを閉じた。