第13章 この手が届くうちに【R18】
再び、彼と――二人きりになった。
暗い部屋。冷たい空気。足元には、傷ついたままの影が落ちている。
私の足。その震えが止まらない。
「……やっと静かになったな」
ふ、と低く笑う声。
振り返れば、壁にもたれるようにして座る荼毘の姿があった。
その目が、まっすぐに私を見ている。
私を壊そうとしてくる目。さっきまで、そう信じて疑わなかったのに。
……今のその眼差しだけは、まるで違っていた。
熱を帯びた蒼い瞳。
その色が、なぜか私の胸を強く揺さぶった。
『……っ』
あの日、何度も見つめられた色――
焦凍の、左目と、同じ色。
頭の奥が揺れる。
まるで、認識がゆっくりと溶かされていくような感覚。
「……なんだよ」
荼毘が眉をひそめる。
「そんな顔すんな。まるで……俺を知ってるみてぇな目で見やがって」
その瞬間、心の奥がぞわりとした。
知らないはずの何かに、触れてしまったような。
知ってはいけない何かを、知りかけてしまったような。
『……どうして……』
思わず呟いた言葉は、震えていた。
『どうして……その目、そんなに……焦凍と、似てるの……?』
空気が、音を立てて凍りつく。
荼毘の目が、一瞬、大きく見開かれる。
けれど次に返ってきたのは、また、あの乾いた笑い声だった。
「ははっ、マジかよ……やっぱ、似てんのか、俺と“あいつ”」
肩を揺らして笑いながら、けれどその目だけは、少しも笑っていなかった。
「安心しろよ。俺は、あの坊っちゃんみてぇに優しくなんかねぇから」
次の瞬間、ぐいと腕を伸ばして、私を引き寄せた。
「壊してやるよ、ちゃんと。全部。……俺のもんに、なるまでな」
目の前にあるその瞳が、確かに焦凍と同じなのに、
まるで別の――歪んだ熱で燃えているように見えて。
『……っ』
声が出せなかった。
胸の奥で何かが崩れていく音がした。
私は今、確かに生きてる。
けれど、生きたまま、焼かれていくみたいだった――