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【ヒロアカ】re:Hero

第13章 この手が届くうちに【R18】


どうして、こんなに寒いんだろう。
目の前の男は笑ってるのに、息が凍るほど寒い。

「頼んだよ、荼毘。彼女のことを」

それだけだった。たった、それだけの言葉なのに。
私は、もう何も言葉を返せなかった。

「……あぁ」

荼毘が、私のすぐ隣で口角を上げる。
まるで、心底嬉しそうに。

「壊すのは、得意だよ」

ぞわりと、背中を焼くような寒気が走った。

誰かが、遠くで話してるみたいだ。
耳に届くのに、意味がわからない。
私の身体なのに、指先が、震えて動かない。

『お父さんは……殺されたはず、で……』

だけど、黒霧の中に“いた”。
あの人の“個性”だけが、生かされていた。
“身体は別の人間”――そう、あの男は、笑いながら言った。

私の中の、あの人の声。あの人の手。思い出の温度。
全部、否定された気がした。

『じゃあ私は、いったい誰の“願い”を背負って……』

わからない。もう何も。

俯いた視界に、震える自分の手が見えた。
手首には、赤黒い痣。荼毘に掴まれた跡。
さっきまで笑って、励ましてくれた誰かたちの顔が、霞んでいく。

私は……私を、守れなかった。

そのとき。

「なぁ」

すぐ横から、ひどく静かな声が落ちてきた。

「お前はさ、誰のもんなんだよ」

爆豪か? 轟か? それとも――ホークスか?
一人ずつ、まるで順番に刺すように名前を並べられて。

「でももう、そんなの関係ねぇか」

笑う声が、耳元で熱い。

「今は俺のもんだろ?」

――否定したいのに、声が出ない。

その熱だけが、じわりと身体を蝕んでくる。

 

私は……
きっと今、少しずつ壊れている。

それを止める手は、誰も、もう届かない。
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