第13章 この手が届くうちに【R18】
ひとりになった部屋は、熱だけがまだ残っていた。
体が動かない。
心臓の音だけが、ひどくうるさい。
(……なんで、こんなことに……)
震える指先で、そっと胸元を押さえる。
あの時、勝己に触れられた場所。
焦凍に、優しく名前を呼ばれた場所。
ホークスの手が、そっと私を撫でた場所。
それらが――焼けた。
『っ、……ぅ、ううっ……』
涙なんて、こぼしたくないのに。
気づけば、喉の奥からしゃくり上げる音が漏れていた。
「おーっと、ごめんごめん! お嬢ちゃんもだったわ!」
バタン、と軽い音とともに扉が開いた。
そこに立っていたのは、あのマスクの男――トゥワイス。
「だびおの分までちゃんと運ばないと、怒られちまうからな!さ、行こうか、ちょっと痛むだろうけど許してね〜!」
ふらふらと近づいてくるその足音が、
まるでリズムでも踏むような、奇妙な軽さで。
『……やめ……っ』
声にならない声で抗おうとするけど、
彼はそんなことお構いなしに、私の腕をするりと掴む。
「おっと、おっと。立てる?立てない?まあいっか!」
そのまま、私は引きずられるように立たされ、支えられるかたちで廊下へ連れ出される。
その先に待っていたのは、ヴィランたちの集う空間だった。
異様な空気。
笑っているようで笑っていない顔たち。
冷たく見下ろす視線と、底知れない熱。
その中央にいたのは、白髪の男――死柄木。
「……やっと連れてきたか」
トゥワイスが軽く手を挙げる。
「ういっす、先生のお気にな〜!」
死柄木は、私を一瞥する。
「……あーあ、だいぶ“手荒”だったな。荼毘のヤロー、壊すなら壊すって言っとけよ……」
その言葉に、私は思わず身体をこわばらせた。
(センセ……?)
そして。
「なぁ、センセ? “こいつ”、ホントに使えんのかよ」
そう言った死柄木が、まるで目の奥を覗くようにこちらを睨んだ瞬間――
背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。
どこか、遠くで、
重く響く電子音のような声が、ゆっくりと動き始める気配がした。