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【ヒロアカ】re:Hero

第4章 優しさの証


保健室の扉を閉めると、夕暮れの廊下には柔らかなオレンジ色の光が差し込んでいた。

静かな足音がふたつ。
靴底が床をかすめるたび、淡く反響する音が、どこか心地よくて。

轟くんは私の少し前を、無言のまま歩いている。
けれど、その歩幅がほんの少しだけゆっくりなのが、なんとなくわかった。

私に合わせてくれてる――
そう思うと、胸の奥がじんわり温かくなる。

 

『……ありがとう。ほんとに』

そう呟くと、彼の肩がわずかに動いた。

「……気にするな。俺も……手を抜いたつもりはなかった」

その言葉に、自然と口元がゆるむ。
真っすぐすぎて、ちょっと不器用なところ。やっぱり、らしいなって思った。

 

しばらく、ふたりの間に沈黙が落ちる。
けれど、それは不思議と居心地の悪いものじゃなかった。

夕暮れの光が差す廊下を歩きながら、私はふと、横の窓に視線を向ける。

『轟くん……すごく強かったね。あの氷の広がり方……正直、ちょっと鳥肌立った』

「そうか」

彼の返事は短くて、表情も変わらない。
でも、その声の色が少しだけ柔らかく感じられたのは、きっと気のせいじゃない。

 

階段の踊り場で、彼がふと立ち止まる。
私はつられてその隣に立った。

窓の外には、朱に染まった校庭が静かに広がっていて、まるで世界全体が夕日に包まれているみたいだった。

「……あの時、動けたのはすごかった。普通の人間なら、とっくに凍ってたはずだ」

小さく、でも確かに届いたその言葉に、私は笑って言った。

『ふふ、“普通”じゃないってことかな?』

彼が少しだけ顔をこちらに向ける。

「……かもしれない」

その目に、ほんのわずかな温度が宿っている気がして、
私はつい、声を立てて笑ってしまった。

『もう……そんなの、素直に“すごい”って言ってくれればいいのに』

「……言ったつもりだったんだが」

その言い方があまりにも真面目で、なんだか可笑しくて。

ほんのささいなやりとり。
でもその何気ない一瞬が、じわっと胸の奥をあたためていく。

やがて、私たちはまたゆっくりと歩き出した。

夕日に背中を押されながら――
まだ誰もいない、静かな1-Aの教室へと向かって。
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