第12章 あの日の夜に、心が還る
月明かりに照らされた林の入り口は、思っていたよりずっと静かだった。
『……行こっか、ヤオモモ』
「え、ええ!だ、大丈夫ですわ……!多分……っ」
ヤオモモちゃんは私の腕にそっと手を添えてくるけど、その指先はほんのり震えてて──
でもなんとか優雅さを保とうとしてる姿が、ちょっと可愛い。
懐中電灯の光を頼りに、落ち葉を踏みながら進んでいく。
ふいに枝が揺れて、黒い影が視界の端を横切った。
『っ……!』
びくっと肩が跳ねる。ヤオモモちゃんも、小さく息をのんだ。
「だ、大丈夫です!私が、あなたを守りますからっ!!」
「いざとなれば、防具でも武器でも創造して……!」
『いや、それが出てきたら逆に怖いよ!?』
つい突っ込んで、ふたりでちいさく笑った、ほんのそのとき──
「うおおおおおあああ!!」
『きゃあああああ!!!?』
木の上から、いきなり人影が飛び出してきた。
懐中電灯の光を反射して白く光る何かが、勢いよく地面に飛び降りて──
「やばっ、ちょっ、待って待って!ビビらせすぎた!?星野ちゃん、泣いてない!?!?」
ぺたんとその場に座り込んだ私の前に、あわてて駆け寄ってきたのは──回原くんだった。
『……か、回原くん!? びっくりした……!』
「ご、ごめん!マジでそんなに驚かせるつもりなかったって!もうちょっと、こう……笑いながら驚いてもらえるやつ狙ってたのに……!」
「あなたっ!!」
ヤオモモちゃんがさっと立ちふさがり、ぷるぷる怒ったように睨みつける。
「レディを泣かせるなんて最低ですわ!今すぐ謝ってくださいな!」
「わわっ、ごめんごめん!!ほんとごめんって!!ジュースでもお菓子でも何でも買うから、許して!!」
回原くんは完全に謝罪モードで、手を合わせてペコペコ。
『……ほんとに、びっくりしただけだから』
私は涙をぬぐいながら、なんとか笑ってそう返した。
「……一応、この先はもう何も出ないって伝えとくから!オレ、次のペア来るから戻るけど……ほんとごめんな!」
回原くんはぴょんっと木に飛び上がって、あっという間に見えなくなった。
『……ヤオモモ、大丈夫?』
「ええ……でも、怒りで心臓がバクバクしてますわっ!」
思わずふふっと笑って、ふたりでまた歩き出す。
落ち葉を踏む音と、ふたりの足音だけが、夜の森に溶けていった──
