第12章 あの日の夜に、心が還る
『できたよー!運ぶの手伝ってー!』
湯気を立てる鍋を運びながら声をかけると、食堂の奥から「はーい!」と数人が手を挙げて駆け寄ってきた。
炊きたてのごはん、肉じゃが、大皿の副菜。
それぞれが手際よく並べられていくテーブルを見ていると、
まるでクラス全体が“ひとつの家族”みたいに思えて、ふっと笑みがこぼれた。
「うおーっ、めっちゃいい匂いすんじゃん!」
「星野ちゃんが作ったん?絶対うまいやつ……!」
「あ、勝己と一緒にやったから!」
『でも今日の味付け、たぶん勝己のほうが強いかな?』
「ハァ!?俺がつけたら完璧に決まってんだろ」
すかさずいつもの調子で返す勝己に、周囲からも笑い声がこぼれる。
「おお〜〜〜なんか……普通に家族感ある」
「合宿なのに実家みたいな安心感……」
「あっ、俺このにんじんのかたち好き〜♡」
「ちょ、勝手に取るな!それ俺の分!」
……わちゃわちゃと、にぎやかに、どこまでもあたたかい夕食の時間。
焦凍はといえば、少しだけ控えめに肉じゃがをよそって黙々と食べていたけど、
『味どう?』って聞いたら、ほんの少しだけ頬を緩めて「……うまいよ」って返してくれた。
……それだけで、なんかもう、すごくうれしかった。
みんなが笑って、食べて、幸せそうで。
その空気に包まれてるだけで、今日の疲れがふっと軽くなるようだった。
『じゃあ……いただきます!』
「いただきまーす!!」
思い思いの声が食堂に響いて──
今夜もまた、“たからもの”みたいな時間が始まった。