第2章 翅(はね)の記
あのとき——
「とりさん、いいなあ……」
誰かがぽつりとつぶやいた、その声を聞いた瞬間、
胸の奥がふわりと温かくなった。
まるで、そこに小さな灯りがともるみたいに。
『わたしも……飛んでみたい。空を、自由に。』
たしか、あの頃のわたしは、まだ三歳だったはず。
でも、その気持ちははっきりしていて、
どうしてか理由もわからないまま、ただ強く願った。
次の瞬間、背中がじんわりと熱くなって、
何かがふわっと、ひろがっていく感覚。
慌てて鏡の前に走って、目をこすりながら覗き込むと、
そこには——
背中から生えていた、白くてふわふわの、大きな羽。
淡く光っていて、やわらかくて、どこか神さまみたいな気配がした。
『これって……わたしの、個性?』
とりさんみたいに、ひらり、ひらりと舞ってみたくて、
思いきって背伸びをするようにジャンプしたら——
ふわっ、と。地面から、足が離れた。
『とんでる……!ほんとに、とんでる!』
嬉しくてたまらなくて、くるくる回って、またジャンプして。
その日から、毎日が空でいっぱいになった。
あそこまで飛べるかな。もっと高く飛べるかな。
朝も、昼も、夕方も。
飛ぶことばかり考えてた。
夢中で、心から、楽しかった。