第10章 翼の約束
ホークスside
寝息が、すう……と静かに落ちていく。
ホテルの部屋。
ベッドの上で眠る君は、何も知らない顔で、
目を閉じたまま、どこか子どもみたいな表情で、胸を上下させていた。
……今日も、無理したな。
あんな火災、普通はプロでも躊躇うレベルだ。
それを、ひとりで鎮火して、人を守って、最後には立ってられないほど消耗して。
お守りのことを聞いたときは、
正直、心臓止まりそうだった。
まさか、羽根をそんなふうに……
ずっと、胸元に下げててくれたなんて。
──バレそうだったよ。
今にも言いそうだった。「好きだ」って。
おれは君を、ただのインターン生なんて思ったこと、一度もないって。
でも言えなかった。
君の目が、ずっと“まっすぐ未来”だけを見てること、
知ってるから。
おれが立ってるこの場所には、君の背中を引き留める資格なんて、きっとない。
「……ずっと、……君を見てる」
ぽつりと、誰にも届かない声が落ちた。
指先が、触れそうで触れない距離で、君の髪をすく。
「なにかあったら……お前ごと飛んでってやるから…」
眠ってるからって、無意識にこんなことを言うのはずるいって、自分でも思う。
でも、伝えたかった。
ほんの少しだけ、気づいてくれてもいい。
君がどんなときも、自分の想いを貫けること──
それを、誰よりも知ってるのは、きっとおれなんだって。
小さく肩が揺れて、寝返りを打った君が、ふいにおれの羽根に頬を寄せた。
……なんだよ、それ。
それじゃ、まるで甘えてくれてるみたいじゃんか。
この夜が、ずっと終わらなければいいのに。
そう思ってしまった自分に、ふっと笑う。
──おやすみ、ウィルホース。
心の中でだけ、呼び慣れたヒーローネームを、そっと撫でるように呟いた。