第7章 君に負けたくない
観客席へ戻ると、場内はすでに熱気に包まれていた。
飛び交う歓声、ざわめく空気、そして――
「さあ来ましたぁぁ!!!」
プレゼントマイクの絶叫が、ドームの中心に響き渡る。
「1回戦最後の試合はこのカード! 重力ヒロイン・麗日お茶子ぉぉVS爆破ヒーロー・爆豪勝己ぃぃぃ!!」
『あ……』
名前を聞いた瞬間、足が止まった。
その私に、最前列から元気な声が飛ぶ。
「想花!!こっちこっちぃ!!」
三奈ちゃんが両手をぶんぶん振って、切島くんがニカッと笑う。
上鳴くんはくるくる指を回しながら、「最強〜!マジ惚れた〜!!」といつも通り。
『ちょ、ちょっと、恥ずかしいからやめてってば!』
そう言いながらも、顔の火照りはごまかせなかった。
「おい、想花ちゃん。この後スカウト来たら俺、事務所立ち上げっから。来てくれるよな?」
峰田くんのキラキラした目線に、即座に芦戸ちゃんと耳郎ちゃんが腕を引いた。
「峰田は下がれ」
「スカウト以前に警察案件だよ」
『……ほんと、みんな変わらないなぁ』
くすっと笑って席に着いたその瞬間だった。
「ブー――――!!」
響いたのは、試合開始直前の大きなブーイング。
『……え?』
視線を向けると、お茶子ちゃんがアリーナ中央に立ち、真正面には爆豪くん。
その爆豪くんに向かって、一部の観客たちが不満げな声を飛ばしていた。
「女子相手にガチすぎんだよ!」
「空気読めよ爆破野郎!」
その言葉は爆豪くんに向けられたものだったけど――
どこかで、お茶子ちゃんを“最初から勝てない存在”として扱っているようにも聞こえて。
私は、唇をぎゅっと結んだ。
そのとき、隣にいた轟くんがぽつりと呟く。
「……あいつは、誰が相手でも変わらない」
「対等として見てるだけだ」
『……うん、わかってる』
爆豪くんの目は、いつもと同じだった。
相手を見据え、真っ直ぐに勝負に向き合うその目。
『……ちゃんと、見てるんだね』
誰よりも、まっすぐに。
だからこそ、私はその背中を、少しだけ誇らしい気持ちで見つめていた。