第7章 君に負けたくない
午後のスタジアム。
戻ってきた観客席が、ざわめきに包まれていた。
「……お、おい、あれ……!!」
「うっっそ!?めっちゃ可愛くない!?」
「なにあれ、天使じゃん……」
その視線の先に立っていたのは、
赤と白のチア衣装に身を包んだ、1年A組女子チア隊。
ポンポンを手に、三奈ちゃんはノリノリ、
耳郎ちゃんはちょっと照れくさそうに目を逸らし、
葉隠ちゃんは……見えないけど、きっと笑ってる。
そして私も――
『……やっぱこれ、絶対おかしいって……』
頬を赤くしながら、ぎこちなくポンポンを振っていた。
観客席のどこかから、悲鳴みたいな歓声が飛んでくる。
視線が、痛い。
そっちを見れば――
爆豪くんは目を見開いたまま、
「……はァ!? おまっ、なにして……」と呟いたきり、目を逸らし。
轟くんは「……星野、それ……」とだけ言って、言葉を飲み込む。
緑谷くんは真っ赤になって固まり、
飯田くんはひとり大混乱。
「な、なぜチア衣装なんだ!?ドレスコード!?校則!?えっ……!?」
そんな混乱の中、現れたのは――相澤先生。
真顔で女子たちを見つめ、低く呟いた。
「……お前ら、何してる」
「「「……え?」」」
三奈ちゃんがそっと手を挙げる。
「え、でも峰田が……先生がそう言ってたって……」
耳郎ちゃんが眉をひそめる。
「……ってことは、ウソ?」
相澤先生は静かに言い切った。
「言ってない。絶対に。」
その瞬間、空気が凍った。
『…………』
一秒の沈黙。
「ちょっと待って、峰田ァァァァァ!!!!」
ポンポンが宙を舞い、
私たちは怒りと羞恥で一斉に駆け出す。
その頃、スタジアムの隅では――
峰田くんが全速力で逃げていた。
「ちょ、待って!!ごめんて!!でも似合ってたし!!夢だったんだよ!!」
「燃えて消えろォォ!!」
追いかける怒号が、スタジアムに響く。
青春とは、きっと、こういう嵐も含めてのことなんだ。