第3章 遅れてきた春
1-Aの教室。
新しい机。新しい椅子。新しい匂い。
生徒たちが順に席につく中で、繋原は一番奥の窓側に、黙って腰を下ろしていた。
制服はサイズが少し合っていない。左手にはまだ、手袋をつけたまま。
誰とも目を合わさず、視線も上げない。
けれど、その存在は確かに、空気を変えていた。
近くの席に座ったお茶子が、ちらっと視線を送ってはすぐに逸らす。
芦「……ねえ、あの子……さっきの特例枠の子かな」
耳「たぶん。……入試のときいなかったよね?」
芦戸三奈と耳郎響香が話していた。
話し声は小さい。けれど、本人には届いている。
繋原はそれに反応することなく、ただ机の端を指でなぞっていた。
まるで、“ここにいていいか”を確かめるように。