第2章 これが“ヒーロー”だって言うなら
2週間後、彼女の部屋には制服が届いた。
雄英高校──あの日、雨の中で言葉を交わした男の名を思い出す。
制服を手にしたとき、はそっとそれを撫でた。
扉の前には、相澤が立っていた。
相「準備出来たか」
「あ…うん」
相「そのうち業者が来る。そしたら荷物を渡せ。寮の案内は前渡した紙に書いてある」
「…分かった」
相「困ったら、連絡しろ。俺の番号は登録してある。」
彼は携帯を渡すと、そう言ったきり、背を向けた。いつもと変わらぬ調子で。
はその背を呼び止めた。
「…待って」
相澤はゆっくりと振り返った。
「…どうして、そんなに良くしてくれるの…?こないだ、会ったばかりなのに。」
相「…ヒーローだからだ」
「ヒーロー…」
相「そうだ」
「…ありがとう」
相「そう思うなら、お前もちゃんとヒーローになって、困ってる奴を…お前と同じような奴を救ってやれ。それがお前にできる俺への恩返しだ」
「…」
は返事をしなかった。いや、出来なかった。
雄英に入学することが決まっても、自分がヒーローになる姿など想像がつかなかったから。
しかしこの時、は自分の中に固い決意をした。
ーー必ず、ヒーローになる、と。
相「それと、入学したらお前の担任は俺だ」
「えっ」
相「2人の時はなんて呼んでもいいが、学校では“相澤先生”だ」
「……分かった。相澤先生」
相「あと敬語、忘れるなよ」
相澤は「また来る」そう言って、今度こそ帰って行った。
窓の外には春の光。
は制服に袖を通し、小さく息を吸った。
――ここから、はじまる。