第2章 これが“ヒーロー”だって言うなら
春休み中の静まり返った校舎、その一室に教師たちが集まっていた。
校長、オールマイト、相澤、そして各科目を担当する教員たち。
机の上には、一通の推薦書と一冊の分厚い能力データが置かれている。
推薦対象者は、政府が“特例保護下”に置いている少女。
名前も素性も不明。能力は規格外。
その是非をめぐって、教室内は張り詰めた空気に包まれていた。
教師A「……政府の要請というのは分かるが、これではまるで社会の“厄介払い”だ」
教師B「彼女の能力が教育の枠に収まるかどうかも……」
教師C「問題を抱えた子を抱える余裕が今の雄英にあるか?」
次々と交わされる懐疑の声。
だがその中、オールマイトは腕を組み、静かに言った。
オ「彼女の目は生きるために、もがいている子の目です。私たちは……そういう子の味方であるべきでは?」
だが、それに返ってきたのはさらに強い反論だった。
教師D「ヒーローは、助ける側だ。助けられるだけの子を育てる場所ではない」
その言葉に、相澤が顔を上げた。
相「……何様のつもりですか?」
一瞬、空気が止まる。
相「“助けられるだけの子”なんて誰が決めた。その子が、何をされて、何を失って、何を守ろうとしてここまで来たか。何一つ知らないで、能力の数字だけで切り捨てるんですか?」
教室の空気が張りつめる。
相「それでもヒーローか?困ってる子供の手を放しておいて、“悪になったらそれ見たことか”と笑うのか?だったらもう、教育なんてやめちまえよ」
その声には、怒気というよりも、諦めに近い冷たさが混じっていた。
オールマイトが小さく頷く。
オ「私も……同意です。与えられる未来がなければ、誰も選べない」
校長は静かにそれを聞いていたが、やがて微笑みを浮かべて言った。
校「――君たちがそう言うのなら、私に異論はありません。“どんな子でも、ヒーローになれる可能性がある”……そういう場であってこそ、雄英でしょう。ただ、確かに危険だという先生方の意見も分かります。誰が見るか、それを決めなければ。」
相澤は目を細めた。
相「私が責任を持って面倒を見ましょう。その子が、自分の足で立てる場所。それがここであるなら、それでいい」
会議は静かに終わった。
その日、特例推薦の少女の入学が、正式に決定された。