第2章 これが“ヒーロー”だって言うなら
雨は弱まり、空がわずかに白み始めていた。
相澤はポケットから何かの書類を取り出し、少女の前に差し出した。
相「これは、個性特異者保護の申請用紙だ。ここにサインすれば、仮の身元を作ってやれる」
はそれを受け取り、じっと見つめる。
「……それで、何になるの」
相「お前がこの先、自分で決めて生きるための足がかりだ」
は一瞬だけ視線をそらし、低く呟く。
「……ヒーローになれば、生きててもいいのかな」
相澤は、わずかに口元を動かした。
相「ヒーローでなくても、生きてていい」
は黙った。だが、ほんのわずかに表情が揺れる。
「……ありがとう。……でも、私は自分で、自分を認めたい」
その言葉に、相澤はわずかに目を細めた。
相「その傷……普通に生きてきたやつが負うものには見えない」
はゆっくりと視線を落とし、ぽつりと漏らす。
「私の能力、珍しいみたいだから」
相「いつからその個性を?」
「わからない。ずっと昔から……でも、使い方は、壊されながら覚えた」
相澤は表情を変えなかった。ただ、静かに視線を落とし、言った。
相「……全部は聞かない。今はな」
はしばらく黙っていたが、やがて、小さくうなずいた。
その頷きに、朝がようやく訪れる気配が重なった。
遠くで、誰かの車のエンジン音が聞こえる。
彼女の正体はまだ何も分からない。本人さえも。
けれどその日、確かに“何か”が始まったのだった。
相澤は何も言わなかった。
ただその目で、まっすぐにを見ていた。