第2章 これが“ヒーロー”だって言うなら
ふたりは、瓦礫の影になった空きスペースにいた。
濡れた床にビニールのような何かを敷き、男は少女に自分のコートをかけていた。
少女は目が覚めるとコートにくるまり、壁に寄りかかっていた。
まだ警戒を解いてはいないが、少しだけ震えが和らいでいる。
相「ここに来る前……何があった」
沈黙。少女は、目を伏せたまま、わずかに唇を動かした。
少女「……閉じ込められてた。ずっと、ずっと。出ちゃいけないって……言われてた」
相澤は返事をしなかった。だが、その視線は少女から逸らさなかった。
相「名前は」
少女「…。それしか覚えてない。名字は…わからない。あるのかも、ないのかも。」
相「そうか」
「でも…名前も、戸籍も、多分……ない。あっても、もう関係ないと思う」
その言葉に、男の瞳が一瞬だけ揺れた。
相「個性は?」
少女はゆっくりと、手袋を外した。
そこには見ただけで壮絶な何かを背負って来たのだと分かる傷跡があった。
相澤は、その傷を見てほんのわずかに眉を寄せた。だが、何も言わなかった。
「"分解"と"修復"。触れなくても……できる。自分も、他人も」
相「代償は」
「治すのは……すごく、しんどい。疲れるし、時間もかかる」
男はしばらく黙っていた。雨音だけが空間を埋めていた。
相「……逃げて、どうしたい」
少女はその問いに、すぐには答えなかった。
けれど、ゆっくりと瞳を上げ、言った。
「……生きたい。生きてても……いいって思いたい」