第5章 戦闘訓練
相澤が書類整理をしていると、足音と共に声が響いた。
オ「やあ!相澤くん!」
相「……お疲れさまです。……ずいぶんご機嫌ですね」
するとオールマイトは満面の笑みで話し始めた。
オ「いやあ、今日の訓練、なかなか見ごたえがあってね!爆豪少年や緑谷少年はもちろん!切島少年の突進力も本当にすごかった!ガツンといったよ、正面から!轟少年も落ち着いていて、連携も取れていた!」
相「はぁ……見てなかったんですよ、俺は」
オ「ふむ。残念だったな!瀬呂少年や耳郎少女も、なかなか鋭い観察眼を見せていたぞ。チーム戦としての成長を感じたよ!」
相「……それは何よりです」
オールマイトのはつらつとした声に対し、相澤は少し気怠げに返す。
だが、オールマイトの声がふと静かに落ち着いた。
オ「ただ、ひとりを除いては……ね」
相「……」
相澤は黙ったオールマイトを見上げた。
オールマイトは軽く頷いた。
オ「…繋原少女だ。彼女は、戦いの最中に“止まった”よ。足元が滑った八百万少女を見て、一瞬、体が動かなくなった。切島少年のタックルを真正面から受けて……壁に叩きつけられていた」
相「……怪我は?」
オ「いや、大丈夫だったよ。体はね。だが心は大丈夫ではないだろう」
しばらくの沈黙。
オールマイトはいつもの笑顔ではなく、穏やかな目で続けた。
オ「彼女は終わった後も泣いたりはしなかった。でも、ずっと自分を責めていた。誰も責めてないのにね。“自分の個性のせいで仲間が怪我をしかけた”、"自分の躊躇のせいで「負け」に巻き込んだ"って」
相「……」
オ「私も声はかけた。でも、あの子の中にはまだ……葛藤が渦巻いてる。自分の“優しさ”を“弱さ”だと決めつけてしまいそうだった」
相「…………」
オ「だから──相澤くん、君から声をかけてやってくれないか?」
相澤は書類を一旦机に置き、オールマイトを見上げる。
相「……俺で、いいんですか」
オ「もちろんさ。あの子にとってのNo. 1ヒーローは私じゃなくて、君だ。私じゃ届かないところに、君の言葉は届くだろう」
相「…………わかりました。様子を見て、話してみます」
オールマイトはふっと、安堵したように笑うと、少し肩の力を抜いて言った。
オ「ありがとう。頼んだよ、相澤くん」
相「……いえ。これは俺の仕事ですから」