第2章 これが“ヒーロー”だって言うなら
冷たい雨が、舗装の剥がれたアスファルトを濡らしていた。雨粒が落ちる音すら、どこか遠く霞んでいる。
街の隅、取り壊されたビルの陰に、小さな人影が蹲っていた。
少女は、ボロボロだった。血の気を失った唇。泥と埃にまみれた頬。長袖と手袋の隙間から覗く腕は、骨のように細く、どこか不自然な角度で折れ曲がっている。
その腕を、誰も気にしないように。いや、誰にも見られたくないように。彼女は背中を丸めて、小さな塊になっていた。
そこに、足音がひとつ。
?「……動けるか?」
静かで、乾いた声。
少女は、かすかに顔を上げた。雨の向こう、ロングコートを纏った男が立っている。髪は乱れていて、目元には隈。
イレイザーヘッド。もとい、相澤消太だった。
その目は鋭く、そして、揺るがない温度を持っていた。
少女「……誰」
相「ヒーローだ。お前は?」
その問いに、少女は答えなかった。
手を伸ばされることすら、怖かった。
だから、少女は震える唇で、こう言った――
少女「……助けないで」
そのままその少女は意識を手放した。