第11章 職場体験
翌日、の病室。
点滴も外れ、起き上がれるほどに回復した昼下がり――
ガラッ
相「……やるぞ」
扉を開けて入ってきたのは、相澤だった。
手に持っているのは分厚いドリル数冊――
表紙にはカラフルな文字
『小学4年 算数 練習帳』
『小学5年 国語 ドリル』
『小学6年 社会 総まとめ』
「……先生、まさか」
相「そうだ。お前、補習対象だ」
「えぇぇ……まだ退院してないんですけど……」
相「だから俺が来たんだ。入院中の特別課題。ありがたく思え」
「ありがたいけど…けど…」
そう言いつつも、は苦笑いしてドリルを受け取る。
相「お前、基礎力が壊滅的だ」
「え、えええ!?」
相「公式以前に、四則計算と漢字と時事問題。まずはそれからだ」
ズン、とベッドの脇にドリルの山が置かれる。
「小学生向け…」
相「そうだ。お前の理解度に合わせたんだ。……恥ずかしいと思うなら、さっさと終わらせろ」
「鬼だ……!」
相「合理的指導者だ」
解いていると、じっと隣で見守る相澤。
「……先生、近い」
相「監視だ」
「スパルタ……」
(……九九、あやしいのバレてる……)
そう思いながら、鉛筆を握る。
“3×7=”
(……21……よし)
書いた瞬間――
相「×だ」
「なぜッ!?」
顔も上げずに即答した相澤に、思わず悲鳴が漏れる。
相「答えは合ってるが、5秒以上かかった。アウト」
「そ、そんな基準……!」
相「合格基準は“反射”だ」
「もはや訓練……!」
だが、心なしか相澤の声は、いつもよりわずかに柔らかかった。
そして、1ページ目に鉛筆を走らせる。
相「終わったら次。入院中に“全部”だ」
「ひ、ひぃ……」
それでも――
その背に、相澤はわずかに目を細めていた。
相(……この程度、できないはずがない)
そう信じているからこその“鬼指導”。
こうして病室には、静かに鉛筆の音と、時々
「ブー」
「やり直し」
の声が響き続けた。