第4章 個性把握テスト
第一種目:50m走
初めは蛙吹と飯田で、蛙吹:5秒58、飯田:3秒04であった。
相「まぁ、水を得た魚。他がどうするのかが見ものだな。お前もな」
最後にの方を見て呟いた言葉は、誰にも届かなかった。
お茶子は服や靴を軽くし、7秒15
その後も続々とタイムを測っていった。
相(個性を最大限使い各記録の伸びしろを見れば、何が出来て何が出来ないかが浮き彫りになる。そしてそれは己を生かす創意工夫につながる)
爆豪は爆発で前へと進み、4秒13
デクは個性を使わず7秒02
そしていよいよの番が来た。
皆注目した。特例の生徒の個性は、どんなものかと。
スタートラインに立ち、は静かに目を閉じた。
周囲のざわつきが、遠くなる。
(筋線維──最大収縮に耐えるためには、余分な組織はいらない)
瞬間、左足が微かに光を帯びる。
(腱の配置も変える。足首の角度、靭帯の張力、骨盤との接合バランス…最短距離を、最速で)
分解と再構築。神経系すら再編成されていく、無音の内部作業。
(走るだけ……ただそれだけのために、“走る器”になる)
ピ、という電子音が鳴った瞬間、の身体が風を裂いた。
その走りは、しなやかで、無駄がなく、異様なほど静かだった。
靴音も呼吸もなく、ただ一陣の風のように走り抜ける。
タイムを示すデジタル表示が、一拍遅れて点灯した。
「3秒07」
……一瞬、空気が止まる。
お茶子の目が丸くなり、耳郎が思わず小声を漏らした。
耳「今の……見えた?」
緑(すごい……一瞬で構えもフォームも変わってた。あれは“筋肉”だけじゃない……神経反応も操作してる?)
轟は、じっとの背中を見ていた。
その目には、わずかながら感情の揺れがあった。
轟(自分の身体を、ここまで…)
爆「……チッ、なんだよあれ…」
そして相澤は、目元を少しだけ細めて呟いた。
相(……筋肉の改変。生物構造の最適化か。精度はまだ甘いが……“使い方”は理解してる)
一方、は無表情のまま立ち止まり、少し呼吸を整えた。
(……ああ、脈が早い。次までに、神経だけ戻しておかないと)
その思考は冷静そのもので、どこか人間離れした静けさを湛えていた。