第3章 遅れてきた春
雄英高校・1年A組、入学初日の翌日。
生徒たちは教室に集まり、昨日の余韻を引きずったままざわざわと話をしていた。
繋原はいつものように一番奥の席に座り、机に視線を落としたまま。
手には変わらず手袋。
そこに相澤が、目元に寝ぐせを抱えたまま教室へ入ってくる。
相「静かに。これから個性体力測定を行う。運動着着てグラウンドへ集合しろ」
唐突な言葉に、教室が一気にざわつく。
「えっ、今日から!?」
「いきなりテスト!? 準備運動もしてないのに……!」
「入学早々これかよ……」
「ヒーロー科だし、やると思ってた」
誰が言うでもなく、全員が重い足取りで席を立ち始めた。
爆豪は聞こえるように笑いながら言った。
爆「なんだっけ、繋原? あいつ絶対大したことねえだろ」
切島は困ったように笑った。
切「お前、またすぐそういうこと言う……」
その時だった。
相「繋原、忘れ物すんなよ」
相澤の口から、ふいに名前が呼ばれた。
教室内が一瞬、静まり返る。
は爆豪の言葉を無視し、相澤の言葉に顔を上げた。
「…はい」
轟は無言のまま繋原の背中を見つめ、麗日は目を丸くして「相澤先生のお気に入り…?」と呟いた。
デクは少しだけ驚いたように目を瞬き、その名を記憶に刻むように反復していた。
だが繋原本人は、相澤の声にただ静かに頷いただけだった。