第3章 遅れてきた春
翌朝
麗「おはよーっ!」
明るい声が教室に響いた。
振り返れば、麗日お茶子が笑顔で近づいてくる。
麗「繋原ちゃん、だっけ?……あってるよね?」
「……うん」
麗「そっか!改めてよろしくね!一緒に頑張ろう!」
お茶子の声に、近くの席の生徒たちもちらりと繋原を見る。
「おはよう」「よろしく」と、小さな挨拶がいくつか飛ぶ。
尾「俺、尾白っていうんだ。よろしく」
芦「芦戸だよー。特例とか気にしなくていいからねっ」
上「オレ、上鳴電気! なんか分かんねーことあったら、聞いていいからな!」
切「俺は切島! よろしくな! なんか困ったことあったら遠慮すんなよ!」
繋原は、戸惑ったように一瞬視線をさまよわせ、それから、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「……ありがとう」
その声はか細いが、確かに教室に届いた。
緑「デクって呼ばれてるけど、本名は緑谷出久だよ」
と、すぐ近くの席から、デクが少し照れたように笑って名乗る。
そのとき――
爆「けっ、騒ぎすぎだろ……」
教室の隅で、爆豪がつまらなそうに舌打ちしていた。机に肘をつきながら、やや不機嫌そうに横目でこちらを見ている。
その視線の端で、峰田が身を乗り出してきた。
峰「いや~でもさ、こうしてよく見たら……けっこう可愛い顔してるよな~……フヒ……」
鼻の下をのばしながら呟くように言ったその瞬間。
「……」
繋原が、スッ……と視線を向けた。
無言のまま、峰田の顔をじっと見つめる。
峰「っ……!! い、いや、その……ちょっとした挨拶で……」
峰田が思わず後ずさりしたその顔は、完全に引きつっていた。
その様子を教室の後方から見ていた轟は、無言のまま視線を向けていた。
ただ静かに、そのやり取りを“観察”するように。
轟(……妙な迫力だな)
そんな複雑な空気が、繋原の周囲には確かに存在していた。
だが教室のざわめきは、昨日よりもずっと穏やかで、やさしいものになっていた。