第4章 メイクデビュー
天気はそこそこ良い。ダートも良馬場だ。
本バ場入場の後、ホマレは深呼吸とともに砂の匂いを吸い込みながらゲート裏で枠に入る時間が来るのを待っていた。
「あ……あれトレーナーだ」
スタンドの立ち見エリアに神座らしき人影が見える。
芝のコース越しに見ながら小さく手を振ったが、頷きのような挙動が見受けられるくらいだった。
『(ちぇっ。振り返してくれてもいいじゃんか……)』
ホマレは少し残念に思いながら、3枠に入っていく。
『(内と中団の確保と……脚を溜めて徐々に浮上。……よし、ちゃんとやれる)』
昨日神座と予習したことを頭の中でシミュレーションしながら辺りを見回す。
両横のゲートにもウマ娘が入り、段々と出走の直前だという実感が沸いてきた。
9人立てのダート走。緊張の面持ちで走る構えを取る隣のウマ娘を見て、ホマレも体勢を整えた。
スタンドからの幾人もの視線を感じながら、少し息を潜める。
『(……今だ!)』
金属音を立てて勢いよく開かれたゲートから、ウマ娘たちが飛び出していく。
ホマレはそれなりのスタートを切り、内を確保しようと柵の方に寄った。
『うわ……っ』
同じように内狙いのウマ娘たちが外から突っ込むようにホマレの前に割って入ってきた。
ぶつかりそうになり、スピードを少し緩める。
砂煙の中、前が塞がっていたりラチに押し付けられるように走っているウマ娘も見えた。
神座が言っていた通り、開幕早々ごちゃついているようだ。
『(内には入れたけど……中団ってより後方になっちゃった)』
ここでいいんだろうか。
ホマレは悩みながらコーナーを回っていき、安定しないスピードで進むバ群のなか脚を溜めて位置を保つ。
『(トレーナーは、計画通りにいかなくても慌てずに仕掛けどころまで待てって言ってた。でも、前のコたちがどんどん距離を離してく……このままでいいのかな)』
向こう正面に入る段階で前列の逃げウマ娘たちが競り合い始め、それにつられた先行勢もスピードをどんどん上げていく。
ホマレのいる後方も段々と加速を見せ始めていた。
『(どうしよう……これ付いていったほうがいいの? 脚ってどこまで溜めとくべきだっけ……?)』