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ラストラインを越えて

第30章 クリスマス・イブ


12月24日の夕方。日が沈みかけ外が薄暗くなった頃。
トレーナー室にいた神座が帰る準備をしていると、廊下を忙しなく走る足音が近付いてきた。
『メリークリスマス! ケーキ買ったから一緒に食べよ~!』
そんなことを言いながらドアを開けたのは、明日のレースに備えて早めに帰したはずのキトウホマレだった。
手にはコンビニの袋を提げている。
「クリスマス会の予定はないはずですが」
神座の小言を意に介さず、ホマレは2人分のホットドリンクと小さめのケーキをテーブルに置く。
『そう言わずにさ、前祝いだと思って付き合ってよ』
手招きするホマレに、神座は浅く溜め息を吐いてデスクから移動した。
『パイプ椅子冷た~っ。暖房もっと上げていい?』
一旦座りかけたホマレが空調の設定パネルの方へパタパタと歩いていく。
「食べたらすぐに帰りなさい。体調でも崩したら明日の予定が台無しになりますよ」
神座が席に着いたのを見て、エアコンの温度を弄り終えたホマレが嬉しそうにしながらテーブルに戻った。
「あと、寮でも浮かれた食事が出ると思いますが食べ過ぎないように。夜更かしせず早めに就寝しなさい」
『分かってるよ~』
テーブルに向かい合って座り、ホマレは自分の分のケーキを開けた。
苺とプラスチックの柊で飾られた手のひらサイズのホールケーキは、ホマレが走って持ってきた為かなり端に寄っている。
透明なプラ容器の内側の大部分には真っ白なクリームがへばりついていた。
『ケーキ崩れちゃってる。ごめんね?』
「何ら問題ありません。いただきましょう」
神座もパッケージを外し、半壊したケーキの上に刺さっている柊を抜きながら答える。
『よかった。いただきまーす』
使い捨てのフォークで少し切っては口に運ぶ。
『ほんとはケーキ屋さんで大きいやつ買いたかったんだけど、カロリーオーバーって怒られるかなって』
「賢明です。何も買ってこないのが一番でしたが」
『えー?だってトレーナーとクリスマスっぽいことしたかったし』
隣のトレーナー室では盛大なクリスマスパーティーが行われているらしく、くぐもった笑い声が壁一枚を隔てて響いていた。
その音が無遠慮に、2人きりの静かな会話の隙間に潜り込んでくる。
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